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神田資料室

KANDAルネッサンス 95号 (2012.06.25) P.10 印刷用


神田は不思議な町だ。
歩いているだけでは町が見えてこない。
(東京のほとんどの町がそうなのだろうが)
KANDAルネッサンスの表紙をやりはじめる前に、旧神田区を歩きまわってみた。
けばけばしい看板の印象ばかりで、そこに住んでいる人たちが感じられなかった。
よそから仕事で来ている人ばかりなのかなと思った。
実際、昼間とくらべると、夜の人口はかなり少ないそうだ。
歩きまわってみて、この町はなぜか足が地に着いているとも感じた。

「いさかかつじの神田日和」として、
町の人を訪ね、
外からではなく、内から見てみることにした。
最初にお訪ねした「お菓子処 ささま」(2005/春)から、
今回の「笹巻けぬきすし総本店」で7年。
取材を重ねているうちに神田は意外と町が壊れていないと感じてきた。
「あ、やっぱり」と神田明神のお祭りの時に思った。
夕方、お神輿が帰ってくる宮入のころに行ってみた。
各町会のお神輿がつぎつぎと戻ってきては、
明神様にご挨拶をしてそれぞれの町へ帰っていく。
普通、宮神輿の宮入がいちばんのクライマックスで神輿の渡御を終わる。   

以前、鉄砲州神社の宮入を見に行ったとき、
鳥居のななめ前にある小さなビルの二階の窓がいっぱいに開けられて、
そこに寝ていたのだろうお年寄りが家族に助けられて起き上がり、
揉んでいる神輿を見ていた。
その年はこの神社の大きい宮神輿が50年ぶりに渡御されるというので盛り上がっていた。
窓から身を乗り出しているお年寄りも50年前はこの神輿を担いだのかもしれない。
「あ、そうか」とある思いが頭をよぎった。
お参りに行けなくなった人たちに
神様の方が町をめぐり歩いてくれているのだ。
「神」の「輿」と書いて「神輿」。
渡御がはじまる前に「御霊入れ」という儀式がある。
神様にお神輿に乗ってもらうための儀式だ。
町の人たちがすみずみまで神様を運んで
神社に行けない人たちと響き合う。
お神輿が町を練りまわることを「渡御」というのも合点がいく。
こういう風に考えていくと、
お祭りのときに使われている言葉のかずかずをつらぬいているものがはっきりしてくる。
  
お祭りの神田の町を歩いて「おーっ」と思った。
町の人たちがこんなにも大勢いたのか。
各町会のお神酒所に町の顔見知りがいい顔して集まっていた。
その笑顔は、形だけ付き合っているようには見えなかった。
久しぶりに町の祭りを見た気がした。


「笹巻けぬきすし総本店」は
地下鉄淡路町駅を降りて小川町の交差点を右に曲がってすぐのところにある。
大きいビルの間にある小さなお店だ。
創業は元禄15年(1702)。赤穂浪士の討ち入りの年だ。
今年は2012年。310年か。
宇田川洋子さん(12代目)、息子さんの宇田川 浩さん(13代目)、
息子さんの奥様、裕美さんの3人でお店を切り盛りしている。
戦国時代に飯を笹でくるんで戦いに行ったことがヒントになって初代が考案した。
鮨を笹で巻くのは日持ちを良くするための工夫で、
冷蔵庫のない時代の知恵だった。
魚の骨を毛抜きで取ることから「笹巻けぬきすし」と呼ばれた。
冷蔵庫が普及し、お客の好みも変わってきたので塩や酢もずっと控えめにしているとか。
ちなみに、たねは「たい、おぼろ、卵、のり、光り物、白身の魚」
笹を巻いてから夏で3〜4時間、冬で6時間ぐらいが食べごろで、
塩や酢がこなれ、笹の香りがなじんでおいしいのだそうだ。
試してみたら、ほんとにおいしかった。
お店でも食べられるが、折り詰めを買っていく人たちが多い。
長い歴史が続いているので資料やエピソードがいっぱいあるだろうと思ったら、
かんばしい返事が帰ってこない。
「住んでいる者には、毎日のことだから〜」と12代目は言う。
「伝統が続いているのをどう思いますか?」と尋ねたら、
「食べるため〜」と言う。
それでいて長い間多くの人たちに愛されている鮨を作りつづけている。
ひとつすてきなエピソードがあった。
ここのお鮨は押し寿司だが、10代目は握り寿司も好きで、
必ずおみやげに折り詰めを買ってきたそうだ。
時代の流れの中でお店でも握り寿司をやった時期があった。
しばらくは売れたが、
「変えたら駄目だ。これをやっていたら『けぬき』でなくなる」と元にもどした。
スローガン、旗印ではなく自然体で営んでいることがよく分かる。
神田の町には、家族経営のこういう店が案外多い。
町が壊れていないからだ。



いさかかつじ (絵ッセイスト)
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