KANDAアーカイブ

神田学会
お知らせ 神田資料室 神田マップ 神田写真館 百年企業のれん三代記 神田の花咲かじいさん 出版物紹介 神田学会とは 神田学会資料請求 関連リンク Perspectives in English 神田アーカイブとは リンクについて 問い合わせ

神田資料室

KANDAルネッサンス 92号 (2010.11.25) P.2〜3 印刷用

神田の働く自転車探訪

 
「働く自転車」という言葉をフリーライターの蔭山眞澄さんから初めて聞いたのは、今年5月。何でも昭和30年代から商店などで活躍している「実用車」という種類の自転車で、蔭山さんはその魅力にすっかりはまっているのだという。写真を見せてもらうと、ママチャリよりもだいぶガッシリとしていて重量感がある。
 今まで街を歩いていてもその存在に全く気づかなかったが、話を聞いた後、不思議と古い実用車が目に付くようになった。郵便屋さんやおまわりさんも使っている。意識さえ向ければ、意外にもたくさんの「働く自転車」が街なかを走っているのだ。
 その後蔭山さんは「働く自転車研究会」を発足。いったいその魅力は何なのか? 研究会の発足メンバーである蔭山さん、早稲田大学教授の佐藤洋一さんに語ってもらった。

自転車を通して見えてくるもの


——そもそも「働く自転車」とは何ですか?
佐藤陽一さん
佐藤 運搬用につくられている自転車のことです。具体的には、荷台もしくは大きな前カゴといった、荷物を積める場所があること。荷物を積めば負荷がかかりますから、それを支えるボディも堅牢さが必要。頑丈につくられていて、タイヤも普通の自転車と比べて幅が広い。荷物を積んだ状態で円滑に動き出せるように、滑車付きのスタンドのものもあります。
 しかし、それだけでは働く自転車とは言えない。僕らがそう呼ぶのは、実際にご商売や日常の場面で使われているさまを捉えたいからです。コレクターが飾っておく「標本」ではなく、生きている状態ですね。
蔭山 街で見かけるのは、ほとんど現役の働く自転車ですよね。引退後も、鉢植えを置かれたり物干しになったりと、別の用途で働いている自転車もあるので時々見かけるので、それも加えてあげたい。

——現役の実用車が多く見られる場所はありますか?
蔭山 神田・築地・合羽橋・馬喰町・浅草橋周辺です。神田以外の場所は比較的同じご商売で使われていることが多いですが、神田は古書店・飲食店・電気関係など、使っている業種や使われ方のバリエーションがすごく多い。
佐藤 そういう点で神田は町の中で自然に自転車が生かされている。懐古趣味というわけではないですが、自転車を追いかけていくと往々にして古いお店や昔からの商売形態に出会います。基本的に商売のなかでの自転車のポジションは昔も今も変わらないですね。
蔭山 それに神田は築地のように「鮮度が命!」というご商売が少ないので、自転車の扱われ方ものんびりしているというか、商売道具という以上に、家族の一員のようになっている自転車に出会えますね。

——運搬用自転車なのに、細かいところまでよくデザインされていますよね。
蔭山眞澄さん
佐藤 そうなんです。だからついまじまじと見てしまうのですが、見れば見るほどいろんなことが見えてくる。デザインの違いとか、いろいろなメーカーがあるとか。発見を積み重ねていくと、よく見かける自転車のタイプがエリアによって少し違うというのもわかる。
蔭山 「パーツ」という無機質なものじゃなくて、「この子(自転車)の個性」や乗る人の習慣みたいなものも感じられる。「この自転車は愛されてるな」っていう感じとか。
佐藤 働く自転車を通して、いろんなものが見えてくるんです。持ち主のご商売のことも見えるし、彼らが物を運んだりして動き回る動線を追いかけていくと、非常に日常的なポイントから、街のことも見える。だから自転車自体はもちろん、その働きから見える、彼らのパフォーマンスや働きぶりというのでしょうか、それが魅力です。だから「働く自転車」。

——実用車の存在って、言われるまでは全然気づきませんでしたが、言われてみると気になり始めますね。
佐藤 僕らもそうだったんですよ。目に入っていたのに気づかなかった。不思議なことですよね。
蔭山 一昨年、『あの日の神田・神保町』(武揚堂)という本を佐藤先生と一緒に作らせていただいて、神田をつぶさに歩きました。たぶんその時目にしたゴツイ自転車のシルエットが、知らず知らずのうちにインプットされていたのだと思います。その後再びお仕事でご一緒する機会があり、新しい企画を考えているとき、「そういえば働く自転車っていろんな所にいたよね」という話になりました。
佐藤 取材時に見ていた写真の中にも、今思えば「こんなにいたんだ」と。例えて言えば花粉症。自分の中に一定量以上の花粉が蓄積されて発症しますよね。そんな感じです。そうなるともう逃れられない。症状と向き合うしかない(笑)。

——それが「働く自転車研究会」発足につながったのですね。
佐藤 初めは自転車の写真を撮ったり持ち主にお話を聞いたりしてとにかく情報を収集していましたが、「集めているだけではもったいない」と、ブログ(http://blog.goo.ne.jp/hatajite/)で活動報告をしています。ちょっとしたきっかけで始めたことではあるけれど、多少なりとも世の中に何か発信できて、それに反応してくれる人がいる。ふと芽生えた疑問と気づきから調べたものを始めたわけですが、何かしら役割があるのだと思います。


今後は築地の調査をするほか、使われなくなった自転車と使いたい人との橋渡しをして、廃車になりそうな自転車を一台でも救出していきたいという。
お二人の愛車はもちろん実用車。自転車素人の私から見ると、単純に、フォルムやデザインが「可愛い、かっこいい!」と思う。お話を聞いているうちに、一台欲しくなってしまった。もしかして軽い花粉症?



ページの先頭へ

戻る

ホーム ホーム