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KANDAルネッサンス 83号 (2007.10.25) P.3 印刷用
特集 都心で鉄道を楽しむ

「ヒューマンスケールの電車」

竹田令二

 中学校時代は通学に、東横線終点の桜木町駅から横浜市電を使っていました。乗っているとき、交差点のポイントで脱線したことが何回かありました。でも、復旧はいつも簡単。前のほうにいた市電がバックしてきて押し(後ろから引く場合もありましたが)、脱線した車両を軌道に戻します。架線から外れたビューゲル(集電装置)は、車掌さんがついている綱を引き、低位置に戻します。以上で、何事もなかったように復旧です。「脱線事故だ!」と大きなクレーン車もジャッキも登場しませんでした。
「MOMO」=岡山電気軌道東山線(小野田正利氏提供)
 スピードだってせいぜい時速20キロ、電車の姿が見えて走っていけば、運転士も待ってくれました。路面電車は私たちのスケールに対応できる乗り物でした。
 JRの電車運転士から、「朝のラッシュ時の駅が怖い」と聞いたことがあります。ホームに進入するとき、客がこぼれそうに見えるそうです。ラッシュで混んでいる駅ではホーム上でも押し合いへし合いで、ホームから落ちる恐怖感がありますから、運転士の目からそう見えても当然でしょう。
 私が通勤に乗っている東横線は、最高時速が100キロ近く、駅は進入するときが80キロくらい、それを200メートルほどのホームの先で本当に見事に停車させます。昔なら急停車に近いスピードの制御です。しかし、進入時にもしホームの客が押されたりして落ちたら…、運転士はそんな悪夢に耐えているのだそうです。
 私が子供のころは、最高で60キロほど、進入するときが20キロほどだったでしょうか。「安全性能も運行管理技術も向上しているから大丈夫」というのは模範解答でしょうが、それで人の不安な心が納得できるわけではありません。
 最近の電車はヒューマンスケールからどんどん遠去っている気がします。「窓から顔や手を出さないで」などという車内放送もなくなりました。
拡大し、都心にサラリーマンたちを「早く、大量に」との要求に応えた結果なのですし、相次ぐ相互乗り入れで非常に便利になっていますが、どうも楽しくありません。駅を降りて地下道を通り、ビルの上階へとエレベーターで運ばれる毎日、わき目も振らず上へ下へと通う点から点への生活、どうも潤いがありません。
 路面電車は街から街を縫い合わせて走ります。前の停留所と次の停留所が見える距離、歩いても苦にならないし、そぞろ歩きも似合います。最近、路面電車が再評価され始めているのは、LRT(ライトレールトランジット)など新時代の低床で、乗客状況に合わせ増結の簡単な車両が開発されたことや、工事費が地下鉄の10分の1以下などという理由もあります。しかし、社会が機能、効率を目指して突っ走っているからこそ、路面電車のヒューマンスケールが心地よく、必要だなと感じるのではないでしょうか。


竹田令二(たけだ・れいじ)NPO神田学会理事
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