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KANDAルネッサンス 84号 (2008.01.25) 印刷用
表紙◆「神田日和」のこぼれ話10

増岡道二郎さん (江戸消防記念会第四区五番組・副組頭)

いさかかつじ

 マンションや団地などの集合住宅では、水漏れや騒音など上下階とのトラブルはつきもの。私も経験をしているが、相手が顔見知りだといいのだが、そうでないとかなり気が重くなってくる。話し合いが建前から始まってギスギスしたものになり、簡単に済む話がこじれてしまいそうになるからだ。
 町も大きな集合住宅のようなものだから、普段からのつきあいを丁寧にしてトラブルがこじれないように心がけていかないと、明日からのつきあいがやりにくくなってしまう。建前より道理。その落とし所。双方から信頼を得ている人を立て、あの方が出した落とし所なら……ということで手を打つ。間に立った方の面子(めんつ)をつぶさないように約束を守る。町はこまごましたことのつなぎ役が必要なのだ。町の知恵だ。

 江戸は、何もない所に町をつくろうとしたので土木工事がいっぱいあった。そして火事が多かった。昔は水で消すというよりも風向きなどを見て家を壊すことで延焼を防いでいたが、経験のない、家の構造もわからないものには壊しようがなかった。やがて高い所が平気で建築の構造にもくわしい鳶がそれを任されるようになっていった。どの家を壊すかを決めるのが頭の役目だった。町のためにとはいえ、焼けてもいない我が家が壊されても納得するのだから、よっぽどの信頼関係なのだ。それがなければこの役はつとまらない。金もうけではない。いざとなったら命がけで人を助け、町のために働く、その姿の中から培われてきたもの。鳶が一目置かれるようになった理由だ。

増岡道二郎さん
 増岡道二郎さんは今70歳。祖父、父と代々神田で町火消し組頭をつとめる鳶の家に生まれた。30年間、消防団第二分団員として活動し、引き続き江戸消防記念会第四区五番組副組頭をつとめ町の人たちの相談に乗ったり、祭りを仕切ったりして町の人たちの人生の要所、要所で重要な役割を果たしている。世話をしたからといってそこから収入を得られるわけではない。鳶と町火消しと町での役割が今ひとつ分からなかったが、『日本人の気風(きっぷ)』(増岡道二郎著/リヨン社刊)を読んで見えてきた。頭のような人がいて町が成り立っていく。いなくなったら建前が前に出てきてギスギスした町になっていくような気がする。それは町ではないのかもしれない。
「祭りごとと挨拶のない町は駄目、それから町には子どもがいなけりゃ駄目だね」と増岡さん。

 神田明神は五番組が預かっている。その明神様でお会いした日も、半纏と股引(ももひき)姿で結婚式の先導役をつとめていた。ピカピカに磨かれていた靴がハレの場にピッタリで粋だった。増岡さんは木遣りの名手でもある。
 ここで増岡さんに教わった半纏についての豆知識を。背中には受け持つ地域の番号が、襟にはそれぞれの役が入っている。増岡さんの場合は「御防(おふせぎ)」(=神社の防火)、ほかに「宮鍵(みやかぎ)」(=蔵の鍵)、「いさみ会」(=出入りの職人)など。なるほど。

 今、娘さんのご亭主、渡辺晋作さんが小頭をつとめている。


いさかかつじ・町と人を訪ねるイラストレーター
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