KANDAアーカイブ

神田学会
お知らせ 神田資料室 神田マップ 神田写真館 百年企業のれん三代記 神田の花咲かじいさん 出版物紹介 神田学会とは 神田学会資料請求 関連リンク Perspectives in English 神田アーカイブとは リンクについて 問い合わせ

神田資料室

KANDAルネッサンス 83号 (2007.10.25) 印刷用
表紙◆「神田日和」のこぼれ話9

八木福次郎さん (日本古書通信社・社長)

いさかかつじ

 言うまでもないことだが、多くの人たちがかかわって一冊の本ができる。本は著者だけのものではない。編集する人、デザインする人、写真を撮る人、絵を描く人、お金を出す人、印刷する人、製本する人……。その人たちの思いや考え、思惑、計算、打算、野心、美意識、プロの技術などがからみあって生み出される。古書店に入ると年月を経たすべての本からかかわった人たちのつぶやきや人生が聞こえてくる。私は本を「物」と思ったことがない。

「ミスター神保町」こと八木福次郎さん
協力:さぼうる(千代田区神田神保町1−11)
 『日本古書通信』という、知る人ぞ知る情報誌がある。“古書店と読者を結ぶ”という志は、昭和9年(1934)の創刊時から変わっていない。ある編集者から「編集者にとっていちばん大事なことはぶれないことだ」と教わったことがある。
 日本古書通信社・社長の八木福次郎さんは今年92歳。昭和11年(1936)からこの“古通”の編集にたずさわっている。10月のはじめには「古本蘊蓄(ふるほんうんちく)」を平凡社から上梓。現役バリバリの編集者で執筆者。古書街の移り変わりを見続けてきた神保町の生き字引的存在。神保町のことを教わるにはうってつけの人だ。「ミスター神保町」にお話を聞くことにした。

 ところが、実際にお会いしたら準備していた質問はどうでもよくなってしまった。
「私の話は横道にそれてしまうのです」と八木さんの言葉どおり話題が広がっていく。神保町の成り立ち、古書店の変遷、出版社での人のつながり、出会った作家たちとのエピソードなど次々と出てくる。合間に質問をするとそこからまた広がっていく。私はお会いする人を全身で感じようとするので、話題の広さ、深さ、記憶の確かさに圧倒されてしまった。どうやってまとめようか思案しながら耳を傾けていた。ふっと<八木さんの記憶そのものをひとつの街として考えればいいんだ。その街を一緒に散歩しながら、横丁の角を曲がると永井荷風や森鴎外がいたり、近所に宝井馬琴が住んでいたり……>、そんなことを思いながら相槌を打っていたら、八木さんに「書きやすいように聞いてください」と催促されてしまった。「八木さんのお話のほうが面白いので……」と答えたら「これでまとめられたらエライ」と言われてしまった。

こつう豆本「神保町今むかし」の特装本
 手のひらに乗るほどの小さい本を豆本という。日本古書通信社は豆本を141冊も出している出版元でもある。こつう豆本「神保町今むかし」という八木さんが書いた豆本の並製本と特装本をいただいた。書体、文字の大きさ、組み、紙、表紙、すべてが気持ちいい。特装本は総革装でタイトルと装画が銀の箔押し、パラフィン紙に包まれ函入り(蓋には並製本の表紙と同じ装画が貼ってある)という凝ったつくりのもの。本への愛情と心意気のある印刷屋さんや製本屋さんがいるからできることだ。
 内容は幕末から現在にいたる駿河台、小川町、神保町周辺の街の変遷がわかりやすく書かれている。付録として、江戸末期のこのあたりの地図と明治後半、大正10年頃の神田古書店の地図がついている。
 長時間、微に入り細に入り神保町の歴史について説明をしていただきながら、浅学非才な私の文章ではそれを伝えることができない。この街のことは、こつう豆本と新刊の「古本蘊蓄」(平凡社刊・2,500円)をおすすめする。

 印象に残った話。
「昨日出た本だって古本になっていきます。それらの本がすべて残っていったら地球の上に層ができるくらい毎日本が出ているのです。それがつぶされたり、捨てられたり、製紙原料になったりするから、そんなことにならないで済んでいる。出版された本の中から後世に残る本を古本屋が扱っているのです。古本屋が扱っている本というのは、残すべき本なのです。消えてもいい本の中にも、それが珍本だと判断する人が出てくる。古本屋というのは意外と本のことを知っているのです」





古書通信社
http://www.kosho.co.jp/kotsu/





 
いさかかつじ・町と人を訪ねるイラストレーター
ページの先頭へ

戻る

ホーム ホーム