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都心学セミナー第2弾

第1講(2006.7.6(木))「創造都市への挑戦—都心学の核心」

講師:望月照彦(多摩大学教授)

  2004年〜2005年にかけて開講した都心学セミナー第一弾は、おかげさまで好評のうちに終えることができました。第2弾のセミナーでは、さらに多彩な講師陣をお呼びしておりますので、いろいろな角度から都心、千代田、そして神田を学んでいただければ幸いです。
 さて、第1講では、「創造都市への挑戦」というテーマでお話いたします。そもそも「創造都市」とはいったい何でしょう。まずそこからお話しいたしましょう。

■創造都市とは


 今までは「都市創造」という言葉をよく耳にしていましたが、これは簡単に言うと快適な風景や街並みを創造していこうということ。それに対して「創造都市」は、都心そのものが創造するという考え方で、5、6年前から世界的に使われ始めています。
エジンバラでの美しい風景
イギリスの都市経済学者チャールズ・ランドリーは、『創造的都市—都市再生のための道具箱』(日本評論社)という著書の中で、都市における重要な資源(シビックインフラストラクチャー)は、そこに住む人々であると言っています。つまり市民が最大のインフラになるというのです。これは驚きですね。地域をつくり変えていくのはそこに住む市民なのです。ランドリーは、創造性とは科学者やアーティストのための占有物ではない。すべての人々が創造的であることが重要だと唱えています。さらに、行政に依存しない、市民による街づくりこそ創造都市だといいます。その成功例として、ランドリーは滋賀県長浜市が行った黒壁のまちづくりを、とても高く評価しています。
 私が考える創造都市とは、人間一人一人が生きることの喜びを謳歌できる都市です。「神田に暮らしてよかった」「神田でビジネスを始めてよかった」と感じること。これが創造都市において一番大切なことではないでしょうか。文化、芸術、行政そして産業や市民もそういったことのために機能する。それぞれが創造的な能力を発揮し、そこに住む人たちにとっての幸せを創る都市こそ、創造都市の究極の姿であると思います。
 そして、幸せに働く人々の姿を見るのが、21世紀の新しい観光のかたちではないでしょうか。これは神田でも可能だと思います。
 ヨーロッパでは、人々がハンギングフラワーを飾り、嬉しそうに手入れをしている姿をよく目にします。その姿はこちらまで幸せな気持ちにしてくれます。これが創造都市なのです。
 では、なぜ今創造都市が注目されているのか。その9つの背景と、創造都市になるための条件を見ていきましょう。

■創造都市が注目される9つの背景


① 時代はグローバルスタンダード(国際的に共通する理念やルール)からローカルオリジナリティへ——神田はローカルです。神田という独自の文化があります。我々は、この独自の文化を育てていかなくてはなりません。
② 行政主導からの脱却の時代へ
③ ハードよりソフトを充実させる時代へ
④ 技術オンリーから、文化や芸術を技術と融合し活用する時代へ
⑤ 専門性の重視から、多用な分野の人たちによるアライアンス(提携)の時代へ 
⑥ 個人と組織がよりオープンな関係をつくる時代へ
⑦ 既成のルールがビジョンを生み出すのではなく、ビジョンを実現するためのルールをつくる時代へ
⑧ 新規投資ではなく、地域資産を十分に活用する時代へ
⑨ 地域潜在力が、地域の比較優位性を生み出す時代へ

■創造都市になるための5つの条件

先ほど述べたような時代を背景に、創造都市になるためには5つの条件が必要とされます。

① 市民が誇り、世界を感動させる文化力があること——千代田区にはこのような文化力が内在しています。しかし、それらをさらに発展させていこうとする我々の力がまだ足りないのではないでしょうか。
② 地域の問題を、地域自らが解決する地域力があること
③ 特異な人間を評価し、支えていく人間力があること——この人間力が、違った価値観を持った人と融合し、お互いを認め合い共生していく社会をつくります。
④ 知恵を商品化し、ビジネス化する起業力があること
⑤ 多文明を受容し、世界化する国際力があること

以上の条件が、「創造都市」を可能にする力なのです。

■創造都市を支えるには

創造都市を支え、持続させるためには次の5つの条件が必要です。

① 創造を志す市民・組織・企業が存在すること
② 創造的風土、創造的であることを称える文化が存在すること
③ 創造的産業、ビジネス、環境、文化を支援し育む仕組みやシステムが存在すること
④ 創造性の価値評価、客観的認知の存在があること
⑤ 風景を貴重な財産とみなす意識があること——日本はとかく隣とは違った建物をつくる傾向があ
美しい街並・風景が貴重な財産と考えられる(ブロードウエィ)
ります。違うことが創造的だと思っているのです。
 しかし、イギリスのブロードウェイのように、隣と同じ構造、同じハチミツ色の壁の家を100年以上も守り続けてきたことこそが街の価値となっているという実例があります。これこそ創造都市といえるでしょう。イギリスの田舎町のように、都市資源を活用した社会実験を創造都市のなかで考えていかなくてはなりません。
 何よりも千代田区には、9つのインフラがあります。この数は世界に類例がないと言ってもよいでしょう。 


■千代田区にある9つのインフラ


① 象徴のインフラ……中心部にある、皇居と緑の自然
② 政治のインフラ……国会議事堂をはじめとした政府機関
③ 経済のインフラ
④ 知恵のインフラ……大学や古書店街
⑤ 情報のインフラ……新聞社やコンベンションセンター。どこよりも早く情報をビジュアルで得ることが          できる。
⑥ 技術のインフラ……秋葉原を中心としたIT産業
⑦ 娯楽のインフラ……有楽町界隈の劇場の集積
⑧ 商業のインフラ……商業集積と食文化
⑨ 芸術のインフラ……今、強力に生み出されようとしている分野

 これら9つのインフラが曼荼羅的に東京の都心を彩っています。これらをどのように融合させ、活用していくかが創造都市への扉へつながっていくのです。ただし、日本人の問題意識はまだ低く、未開拓な分野であることも事実です。
 これらの9つのインフラを見てみますと、都心は行政、企業、市民など都市に関わる人々の壮大な社会実験の積み重ねによる「作品」と言ってよいでしょう。そして東京都心は、その社会実験のトライアルゾーンになっているのです。
 そこで、社会実験の4つの事象を取りあげてみましょう。

① 21世紀のビジネスの苗床をつくる実験——経済産業省は企業の数を増やそうと必死です。にもかかわらず、倒産件数の方が新規企業の数を上回っているのが現状です。アメリカでは、シリコンバレーやオースチンのようなインキュベーション(起業支援)シティが確立されていますが、残念ながら日本にはありません。
② ヒートアイランドを過去のものにする環境創造実験
③ 政治・産業の場から芸術・文化のアトリエシティへ——単に作品を飾るのではなく、アトリエとしてクリエイターが活用できる場をつくる実験
④「Work(働く)」から「Walk(歩く)」をベースにした観光都市へ

■産業遺産を使った都心ルネッサンス

 都心ルネッサンスのビジネスモデルとして、神田の地域産業再生と産業遺産を活用した産業観光を提案したいと思います。
神田の産業遺産・赤レンガ高架
 東京都心・千代田区にはたくさんの産業遺産が残されています。特に近年注目されているものに、JR高架橋の神田駅からお茶の水駅間の赤煉瓦ガードという土木遺産があります。これら産業遺産は近年観光資源とされ、名古屋がその産業観光をリードしていますが、東京都心にもそれに負けない資源が存在するのです。
神田須田町にあった交通博物館は、今年5月惜しまれながらその長い歴史を閉じましたが、跡地活用について、地域の知恵が求められています。以前、明治大学の学生たちが交通博物館の活用法として、神田川に生息する川魚を集めた淡水魚の博物館をつくったらどうかというユニークな提案をしました。

■パリのドミニエル通りから学ぶ


 煉瓦造りの高架橋下にはさまざまなお店が入っていますが、統一されたテーマで活用されていません。そこで私が提案したいのが、パリのドミニエル通りのヴィアディック・デザールのような、高架下のアトリエです。ヴィアディック・デザールはパリの伝統産業と産業遺産を活用して誕生したもので、職人達の楽園とまで称されています。
 ここは、40〜50年間使われず保存されていた国鉄の高架橋でしたが、今は額縁屋や楽器職人などパリの職人達が集結し、新しい職人街として生まれ変わり、とても活気に満ちています。12の区役所、国鉄、職人組合、市民がアライアンスして地域遺産を見事に未来資源に発展させたのです。まさにパリの叡智が生きているといえるでしょう。日本でもぜひ実現してほしいと切に願っています。

■インキュシティの実現へ


 もう一つ、インキュ(ベーション)シティをぜひ千代田区に誕生させたいのです。今は大企業を呼び込むことばかりが優先されていますが、これからは新しいビジネスが生まれる創造都市が誕生してほしいと思います。
 近年の巨大な再開発事業によって、最先端のIT装備を持ったオフィスビルが林立しています。その結果、かつての中小事業ビルや商業ビルに空洞化現象が生まれています。しかし、この現象はむしろアメリカのジャーナリスト、ジェーン・ジェイコブズが言うように、新たな都市先端ビジネスの苗床として大切な役割をそれらの環境が生み出すと、戦略的に考えることができるでしょう。
再開発ビルにも意欲的なビジネスシーズが育ちつつある
特に神田界隈には、歴史的な中小ビルが集約しています。それらの活用は東京都心の運命を左右するでしょう。既にいくつかの先端ベンチャー企業群がそれらに目をつけ、都心型ビジネスコンソーシアム(企業連合)の試みを始めています。
例えば秋葉原の街を豊かな土壌として、IT・エレクトロニクス・医療・バイオ・アニメ・ゲーム・映像・オーディオ産業など、「フレキシブル・スペシャライゼーション(柔軟な専門特化)」という考え方で新たな事業展開を革新的に実現し、「第三の日本モデル」を創造するチャンスは大きく広がっているのです。
 ですから神田・秋葉原界隈は、世界のIT・エレクトロニクスをベースにした先端企業群の苗床になる可能性が大でしょう。

■ビジネスコミュニティの存在


 では、知のインフラである大学が集積し、中小ビルが林立し、また金融シンジケートが潤沢に立地しているにもかかわらず、なぜ秋葉原はタウンインキュベーター(起業支援組織)として機能しなかったのでしょうか?
 その答えを一言でいうと、この地域に「ビジネスコミュニティ」の存在がなかったからです。アメリカのシリコンバレーや、マイケル・デルで最も注目されているテキサス州オースチンは、現在の世界的なベンチャー企業の苗床であるのです。そのキーワードは「ビジネスコミュニティ」。この一言に尽きるのです。

■未来へのメッセージ

   

私たちは、今ある都市の姿を見つめ直さなくてはなりません。そして私たちがテーマとする都心の重心に、その新生を可能にする9つのインフラと豊富な資源が眠っていることを認識しなくてはなりません。 
 都心文化、都心産業、都心観光は神田に活力を与え、確実にまちを救ってくれます。
 小さな活動でもいずれは、日本のみならず地球の未来に大きな夢をプレゼントしてくれることでしょう。

  
ハーモニーホール(千代田区内神田1-16-9)にて   
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