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KANDAルネッサンス 78号 (2006.07.25) P.12〜13 印刷用
当世古本屋事情 その2

鼎談 古書業界はこれからだ②


佐古田亮介(けやき書店)
藤原栄志郎(とんぼ書林)
高山 剛一(高山本店)


古書店にとってブックオフの存在とは
佐古田:ブックオフができて一番打撃を受けたのが郊外のお店でしょうね。それなりにいい立地条件で順調にやってきたお店のはす向かいに、ある日突然200坪ぐらいのブックオフができちゃったとなると深刻ですね。商品構成がかぶっちゃうんですよ。そうすると規模が大きいほうがだんぜん有利だし、営業時間だって長いから太刀打ちできないですよ。
藤原:どんどん宣伝してますからね、「本を売るならブックオフ」と。テレビCMもやるし新聞宣伝もやる。5年後「古本屋」って言葉はなくなって、古本屋のことを「ブックオフ」って言うようになるかもしれないって、冗談で言うんですけど(笑)。
佐古田:だからブックオフは知っていても古本屋はよくわからないっていうのが、たぶん普通の人の感覚なんだろうね。
高山:あまり古本屋さんを知らない人が僕等を指して、「こちらで扱っているのは古書みたいですよ」と、古書という言い方で使い分けしていますね。
佐古田:古書に対する新古本。
藤原:使い分けた結果、そういう呼び方をつくったみたいですね。
高山:でもブックオフに専門書が売られちゃうのは困りますよね。
佐古田:専門書はこっちに持ってきてくれるように宣伝しなくちゃね。でもお客さんもばかじゃないから、ブックオフに持っていくものとそうでないものを分けている。だってブックオフで100円にしかならないものでも、こっちに持ってくれば千円にも二千円にもなることをわかっているんだから。もっと極端な考え方をすれば、ブックオフに売ってもらっていいのよ。それを買いに行けばいい。だって市場で競り合ったら4千円も5千円も入れないと落ちないものが、ブックオフへ行ったら100円だよ。だからそういった意味でも一時の脅威は去ったと思う。今は共存共栄ができるわけですよ。この世界はプロとアマの境界があいまいで、ブックオフで背取り(古本屋から本を安く買って転売すること)して古本屋に持ち込んで小遣い稼ぎをするセミプロがいるわけで……。
高山:ブックオフで買ってきて、そのままブックオフの袋から出す人がいますよ(笑)。
佐古田:ブックオフってピアノの中古販売をやっていた人が始めた商売なんですよ。そのノウハウでやっているので、とにかく安く仕入れて、安く売る。もともと考え方がこちらと違うんです。われわれ古書の世界は価値のあるものを残していこう、ずっとリサイクルしていこうという考え方だから、定価以下で売るものもたくさんありますけど、定価以上で売るものもある。ブックオフではプレミアムがつくことはありえない。そこがまったく違う。われわれの業界は、同じものを扱っているようでいて実は違うんですよ。神保町に160軒もお店が集まっていて、それでもやっていけるというのは、本の世界がいかに広いかということ。神保町は特殊化しているから食い合わない。かぶる部分はあっても徹底的な食い合いにはならないんです。ちょっとずつ違いがあるから成り立っていく。ブックオフはたぶん全国どこに行っても同じ。だから限界があるんです。
 そもそもああいう商売が始まったのは大量出版のおかげですからね。それを考えると、出版社が怒っているのはよくわからない。新刊をばんばん出すからブックオフができたわけで。はっきり言ってこの量の古本がわれわれのところに流れてきても対応できないですよ。さばききれない。
藤原:ブックオフにはベストセラーがばーっと並びますけど、古本屋はベストセラーは買わないし、入ってきても廃棄処分にするしかない。この業界に入ってすごいなと思ったのは、古本屋って全部自分でお金を払って買い取るでしょう。しかも売れないと思ったものはどんどん処分していく。そうすることによって、古本の流通の風通しをよくするみたいな部分がありますよね。それとブックオフが買うのはきれいでせいぜい10年ぐらい前までの本。戦前の本を持ち込まれても捨てるしかないでしょう。そういうものは古本屋さんに持ってきてもらう。
佐古田:古い本って価値があるのかないのか素人にはわからないんですよね。集めている本人が生きている間は本の価値がわかっているからいいんだけど、そのことを奥さんには正直に言わないわけですよ。だって奥さんにしてみりゃ、買ってきた古本が20万だなんて言われた日にゃ、「読みもしないのにまた本買ってきて!」ってなるでしょう。怒られるだけですから、旦那も怖くて言えないわけですよ。だから旦那が死んじゃってそのことが伝わってないと、奥さんはそんな価値のあるものだと思わないから捨てちゃったりするわけですよ。それが一番怖い。
藤原:よくありますよね。旦那さんが亡くなったあと、奥さんが古本屋さんを呼んで、文学全集とか百科事典とかきれいな本だけとっておいたからって言うんだけど、庭で雨ざらしになっている汚くて古い本のほうが価値があったという話。
佐古田:だから価値がわからないとそういうことになってしまう。全集なんかのほうが立派に見えるから。
藤原:本を集めるのって物理的な問題がありますからね。
佐古田:場所取るし、埃もたまるし、邪魔なんですよ。掃除もできやしない(笑)。邪魔者でしかない場合が往々にしてあるから怖い。
藤原:捨てられちゃうとおしまいですからね。
佐古田:でも、ちり紙交換や解体屋のなかにはそこらへんちゃんとわかっている人がいて、金目になりそうなものは古書業者に持ち込むわけ。そしてまたわれわれの業界に戻ってくるんです、燃やされなければ。だから古い本がどんどんなくなっていくのかというと、そうでもないんですよ。
提案としては、ブックオフと古書組合は提携したほうがお互いうまみがあると思う。ブックオフに持ち込まれた本のなかで、ブックオフで扱えないものをこちらに持ってきてもらうとかね。
古書業界も団塊の世代をねらえ
藤原:10月4日は古書の日ということで、去年も「古本屋になるには 一日講座」を広報部主催でやりました。だいたい100人くらい集まりましたか。
高山:定員をオーバーしたんですよね。
藤原:日曜に講座を開いたせいか大阪、京都、仙台など遠いところからも来てくれて。今まで古本屋さんになりませんかなんて、そんな講座を開くこと自体なかったですから。
——定年を迎える60歳前後の方で、古本屋になりたいという人がけっこういるみたいですね。
藤原:新聞にも取り上げられましたよね(日本経済新聞:2006年2月23日夕刊)。今話題になっている団塊の世代がこれから大量に定年を迎えるわけですが、あの世代は本好きな人が多いんですよ。けっこう理屈っぽい人が多い。本が好きでいろいろ読んできた人たちだから。
佐古田:パソコンなどもない時代だったから、活字から情報を得るしかなかったからね。

これまで「古本屋一日講座」を開くなんて考えられなかった…藤原栄志郎


藤原:そういう人たちが定年になったら何をするか。本を読む時間も増えるだろうし本の需要も増える。講座にあれだけ人が集まるんだから古本屋になろうっていう人もいると思う。市場的にみても、団塊の世代が定年になったときは面白いんじゃないかと思いますね。お客さんとしても、古書業界は団塊の世代をねらえるかなと。
佐古田:いや、いろんな業界がねらってますよ(笑)。
——神保町でも古書店の数は増えていますが。
佐古田:それは郊外から移ってくるケースや神保町の店で働いていて独立するケース、いろんなケースがある。
高山:今まで古本屋さんがなかったエリアにも店ができている。
佐古田:あと最近1階じゃなくて、ビルの中にもできている。やっぱり地価が下がったせいだろうね。

今まで古本屋さんがなかったエリアにも店ができている…高山剛一


藤原:それが一番大きいですよね。それにここは古書の街だし市場も近い。ネット販売や目録販売なら地べたじゃなくても商売できますしね。
佐古田:店も重層化して広がっていっている感じがしていいですよね。やはり若い人が神保町に来るっていうのがいい。
藤原:若い人なりの切り口でものを買っていくから、最初は値がつかなかったようなものでも、こんなに値がつくんだったら気にかけておこうって思いますしね。
佐古田:今でこそサブカルチャーって定着したけど、僕が一誠堂に勤めていた頃は、そんなものみんなつぶして捨てていたからね。それが今はね。
——高山支店ではそういうものを扱っていたんですよね?
高山:「サブカルチャー」っていう言葉がまだなかった。漫画や雑本のたぐいですね。たとえば挿絵が入った子ども向けの雑誌、今だと数万円はしますよ。
佐古田:挿絵を描いていた漫画家が、今では人気のある漫画家になっていたりすると価値が出る。
高山:昔は安く売っていたのに……。
藤原:その時どんどん捨てられて、いまでは希少価値ですからね。
古本屋は本を最終的に選別する場所
藤原:新刊書は書籍だけでも年間7万点近く出ているんです。発行点数は増えていて相対的な売上げは伸びているんだけど、1冊あたりの発行部数は減っている。だからすぐ品切れになる。古書業界にとって発行部数が少ないってことは、商売になるってことですからね。

本が生まれてから死ぬまでの、一番後ろのほうにいるのが古本屋…佐古田亮介


佐古田:日本では在庫を抱えると税金がかかるんです。欧米諸国では売れた時に売上げ税的に発生するので、出版社の在庫は無税。向こうでは「本は文化、支えるもの」っていう考え方が根底にあるので、ストックしておく場所さえあれば20年、30年前に出版された本でも在庫として残っている。だから日本で去年出版された本なのに、もう品切れだから定価より高いというのは、海外からすればちょっと信じられない話なんです。でも日本では在庫に全部税金がかかるから、どんな大出版社でもなるだけ在庫はもたないようにする。おかげで古本屋が成り立つんだけどね(笑)。出版社は在庫をもてないから、新刊を出し続けるしかなくて、しかも売れるものしかつくらないということになってくると、本の中身がどんどんやせ細ってくる。売れる、売れないに関係なく重要な本っていっぱいあると思うんだけど、そういうものはつくりにくくなっている。長いサイクルで考えれば、文化的に衰退していくことになるんです。
われわれの業界は、本を最終的に選別する場所。つまり次代に伝えるべきものかどうか、選別する場所だってこと。
藤原:自分でお金を払って選別していますから、特殊な世界ですよね。
佐古田:本が生まれてから死ぬまでのたぶん一番後ろのほうにいるんですよ、古本屋は。迷わず成仏してよってね(笑)。
藤原:新刊の世界って、本屋に並んで売れないと敗者復活みたいなシステムがないんですよね。
佐古田:出版社はだいたい定価より安く売るっていうのは抵抗あるでしょ。でも売れないからって、全部が全部、悪いものばかりじゃない。内容はよくても今の時代にあっていないとかで売れ残っているものもある。しばらく年月が経つと、価値の出てくる本があるんですよ。これ売れ残って山積みになっていたじゃないっていう本が高く売れるようになっていたりすると、出世したな、お前っていう気持ちになる(笑)。数は少ないけどそういうものもある。古本屋は常にそういう見方をするんだよね。ゾッキ本(見切り品として投げ売りされた本)だって丹念に見て、こいつはいけるんじゃないかと思ったり。
古本祭りのときに、すずらん通りとさくら通りで出版社がワゴンセールやるじゃない、ブックフェスティバル。人気のあるワゴンは、お客さんがわーっと群がって奪い合うようにして本を買っていく。でもぜんぜん客が寄りつかないワゴンもあるんだよ。
藤原:安くしても売れないんじゃどうしようもない。
佐古田:古本の世界でもそうですよ。安くすればなんでも売れるかっていったらそうでもない。たとえば全部100円にしたって売れ残るものは売れ残る。安いから買おうっていうのは業者だけで、お客さんはそのなかでも欲しいものを選んで買っていくからね。ほんと面白いです、古書の世界は。だって扱おうとしたら奈良時代から現代までですからね。途方もないですよ。それを考えると、まだまだこれからじゃないですか、古書業界。


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