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神田資料室

KANDAルネッサンス 77号 (2006.04.25) P.2〜3 印刷用

特集

古本の街を歩こう


ここ数年、神田神保町でも古書店の数が増えている。地価が下がり店を出しやすくなったことも理由のひとつだ。現在その数およそ160軒。老舗がひしめく靖国通りとは別に、通りからはずれた場所に独自の店づくりをする店も増えた。変わりつつある古本の街、神田神保町を歩いてみた。

 平日の午後、古書街は人もまばらかと思いきや、意外と人が多い。
 さて今回古本屋めぐりに参加してくれたのは、神田学会会員の阿部義通さん、高山剛一さん、加藤俊直さん、そして本誌“kanda shot”で神田を撮影している写真家の曳野若菜さん。興味のあるジャンルは人さまざま。戦前の詩集を見たい人から装丁の美しい本、写真集が見たいという人、やっぱりサブカルでしょという人までいて、だったらふだん一人では入らないような店にも行ってみましょうということになった。
 最初にやってきたのは、神保町のシンボル的存在である神田古書センター。ここの3階にある中野書店は古書全般を扱う。この日は古書部の中野智之さんのご好意により、近代の代表的な詩集や装丁の美しい本について解説していただいた。そして、実際にそれらを手にとって見る機会にも恵まれた。
 なかでも堀辰雄の『聖家族』は、その世界観を表現するために徹底的に素材や活字にこだわった純粋造本で知られる。外装にはいっさい文字が入らず、表紙に「聖家族」とだけ印刷された白一色の本からは、本をつくった人の思いが感じられ、見る側に緊張感すら与えるほどである。
「大正の終わりから昭和のはじめ頃までは、戦前の本の黄金期です。昭和10年を過ぎると戦争の色が濃くなって、良い紙もなくなってしまい、本を造る職人さんもいなくなってしまうんです」と中野さん。
 中野書店をあとにして白山通りを水道橋方面へ。トニイレコードを目印に路地へ入ると小さな一軒家が。アミュレットは、昨年鎌倉から神保町に引っ越してきた。“Amulet”とは「お守り、小さいもの」という意味。思わず手に取りたくなるような雑貨や鮮やかな色彩の海外のアンティーク絵本が並ぶ。平日にもかかわらず、ここも若い女性でいっぱいだ。
 3軒目のがらんどうも、昨年愛知から神保町へ進出してきた。民族・郷土文化関係の本を中心に、昭和のノスタルジーを感じさせる雑貨や駄菓子が店内を飾る。柱時計の時を刻む音が心地よい。
 いったん靖国通りに戻り、神保町を代表する老舗、一誠堂書店へ。アールデコ調の重厚なつくりの建物。1階は一般書と学術書が、2階は和本、洋本、美術書などが並ぶ。各売場を担当する店員は、さながら古書店のコンシェルジュといったところ。店頭の均一棚にも人が絶えない。
 靖国通りを小川町方面に歩くと、ブックブラザー源喜堂書店の大きな看板が見えてくる。ここは美術書や写真集などビジュアル本をメインに扱う店。洋書コーナーでは、日本語のたすきがかけられた洋書がずらっと並ぶ。見逃した美術展のカタログはここで探そう。
 最後の店は、明大通りからちょっと入ったところにある虔十(けんじゅう)書林。やまだ紫が描いた猫の絵が目印。屋号は宮澤賢治の『虔十公園林』からとったという。美術や文学、絵本、映画パンフレットと、ジャンルにとらわれないユニークな店である。
 およそ3時間の古書店めぐりの後は、古瀬戸珈琲店に場所を移して、参加者の皆さんにツアーの感想を語ってもらった。


座談会 古本に出会う楽しみ

阿部 今日はたまたま西井一夫さんの本を見つけまして、この人は『カメラ毎日』の元編集長で写真論なども書いていますが、大学時代仲間だった人と同姓同名だったものですから、ひょっとしたら彼かなと思って。経歴を見ましたらやはりそうでした。僕は学生時代の西井さんしか知らなかったので、びっくりしました。
加藤 これもひとつの出会いですね。
阿部 やはり人と人との出会いもそうなんだけど、本との出会いも同じ。これは買わなきゃと思って。
曳野 私は最初に行った中野書店で、作家がすごくこれを書きたくて書いた、それをこういうかたちで伝えたいということをきちんと表現したものが本なんだなとわかりました。現代だと簡単に本ができてしまう感覚がありますが、本が大切につくられていた時代があって、作家の強い気持ちから生まれた幸福な本というものを、今日は目の当たりにしました。
加藤 萩原朔太郎の『月に吠える』を見た時は、いわゆるオーラが出ている本に久しぶりに出会った気がする。本に歴史があるというか。
曳野 特に堀辰雄の『聖家族』が印象に残りましたね。白い装丁で表紙にタイトルだけ。本当に何も入っていない。あのシンプルさ、行間や文字の並びまで本人が指示したという、あれがやはり本の原型だなと思って、ああいう本を一冊きちんと欲しいなと思ってしまいました。すごく高かったですけど(笑)、読まなくても手元に置いておきたい。
高山 そういうものを欲しいと思ってくれる人がいるうちはこの業界もまだ安心ですね。
加藤 装丁がすばらしいだけでなく、つくった人の心意気だとか思想がすばらしいからそこに惚れて買うみたいな感じですかね。
曳野 そうかもしれないですね。物語として消費するのではなくて、ものとして所有したいというか、ちょっと骨董的な感じ。この本を世に出すためにこれだけのことをしました、これに懸けましたっていう感じが伝わってきて。だから古本好きの人の気持ちがわかりました。この文化が続くといいなと。
◇◇◇
阿部 私たちが若い頃は、ある程度本を読んでないと話が合わなかった。テレビも普及していなかったし、パソコンもなかったから、やはり読書が中心でしたね。今は本を読むといっても、結局情報を得るということで本を読む人が多いでしょ。それで本を読み終わったらどんどん売ってしまう。
曳野 住宅事情もありますよね。
阿部 昔のほうがきれいな凝った本があったような気がする。ポール・ヴァレリーの『若きバルク』なども読まなくてもとっておきたい本です。
——そう考えると、現在出版されている本で手元に置いておきたい、捨てられないという本はあまりないかもしれませんね。部屋が本で占領されてきたら、売ることを考えてしまいますから。
高山 だから本が好きな人ほど売りますよ。それでまた本を買う。古本屋に本を売りに行っても、買い取ってもらったお金でまた買っていくんです。
 今日は皆さんの希望をもとに古書店を回りましたが、面白い企画でした。歩いてみてわかったと思うんですが、古書店地図にはその店で扱っている分野が書いてありますけど、すべてではない。一口に文学といっても幅広いですから。でも、ガイドブックには文学と表記せざるをえない。結局、最後は自分で歩いて息の合う店を探すしかないんです。

中野書店古書部:千代田区神田神保町2-3 神田古書センター3階 tel.03-3261-3522
営業時間:10:00〜18:30(日・祝11:00〜17:30、第3日休)

AMULET:千代田区神田神保町1-52 tel.03-5283-7047
営業時間:11:00〜19:00(日休)

がらんどう:千代田区神田神保町1-34 第一越路ビル1階 tel.03-3292-9701
営業時間:11:00〜19:00(日祝休)

一誠堂書店:千代田区神田神保町1-7
tel.03-3292-0071
営業時間:10:00〜18:30(祝10:30〜18:00、日休)

ブックブラザー源喜堂書店
千代田区神田小川町3-1
tel:03-3291-5081
営業時間:10:30〜19:00(日休)

虔十書林:千代田区神田小川町3-20
稗田ビル1階 tel.03-5282-3963
営業時間:12:00〜20:00(土〜19:00、日休)


協力 古瀬戸珈琲店:千代田区神田小川町3-10 江本ビル2階
tel.03-3233-0673/営業時間:11:00〜23:00(日祝11:00〜21:00、年中無休)



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