KANDAアーカイブ

神田学会
お知らせ 神田資料室 神田マップ 神田写真館 百年企業のれん三代記 神田の花咲かじいさん 出版物紹介 神田学会とは 神田学会資料請求 関連リンク Perspectives in English 神田アーカイブとは リンクについて 問い合わせ

神田資料室

KANDAルネッサンス 81号 (2007.04.25) 印刷用
表紙◆「神田日和」のこぼれ話7

古矢健二さん (金ペン堂・店主)


いさかかつじ

「40年ぶりぐらいで万年筆を買った。力を入れないで字を書くというのはこんなにも気持ちがいいものだったのか。なんだか自分が落ち着いた気持ちのいい奴に思えてくるから不思議だ」と表紙に書いたが、今回の実感はこのことにつきる。

 神保町にある「金ペン堂」は間口2間、2.5坪の小さなお店。その気持ち良さを味わいたくて日本全国からお客がやってくる。お店にある外国製や国産品の万年筆はすべてご主人の古矢健二さんの手で解体し調整してある。「金ペン堂」製の万年筆と言ってもいい。

古矢健二さん
 いろいろな部品を違う工場で作り、それらを集めて組み合わせることで道具は大量生産されていく。万年筆も同じだ。使い手は道具を自分に合うようにしていかなければならない。以前、民具の絵を描くために鋤(すき)や鍬(くわ)を何本も触ったことがある。使う人が自分で作ったりしたもので、大きさも、重さも、握る手の位置も一本一本違っていた。重労働になればなるほど、自分に合った道具を使わなければ体と心が悲鳴をあげてしまう。
 筆記具は心で感じ、頭で考えたことなどを書くための道具だから、自分に合わないものを使っていると知らないうちにストレスがたまってしまう。古矢さんは「メーカーはそこのところが意外におろそか」なので「いい状態に調整し直して販売」しているのだそうだ。午後の12時から6時まで立ちっぱなしでお客さまに応対している。取材でお邪魔している間もお客さんが途切れることがなかった。そのなかでお話を伺うには、万年筆を買って客の立場になるのがいちばんいいと考えて1万円のものを求めた。
 調整はお店を閉めてから行う。ルーペを覗きながらの作業は、時には深夜まで及ぶことがあるという。ルーペは永年使っているため指のあたるところが磨耗していた。

 何本も試し書きして買うことが普通らしいのだが、「調整した商品は、お客に試し書きをさせません。自分でもしません。絶対の自信を持っています」「予算と用途をハッキリ言ってくださればベストのものをお出しいたします」という。私も素直に出された万年筆で書いてみた。その感想がこの文章のはじめの言葉だ。
 この自信は、古矢さんのお父さんが大正9年に創業した深川万年町の万年筆工場で、小さいころから部品に囲まれ、組み立ても調整もおぼえて育ったという経験に裏打ちされている。

 このような技術はマニュアルだけでは伝わっていかない。言葉では伝えきれないセンスの部分がかなりあり、体でおぼえていく時間を必要とする。古矢さんは大量生産された万年筆の能力を引き出し、使う人たちが気持ちよく使えるようにしていくアレンジャーなのだ。今の時代だからこそ、道具と人を幸せな間柄にする仕事が必要とされている。なんとかいいかたちで伝わっていってほしい。





金ペン堂
東京都千代田区神田神保町1-4
TEL.03-3293-8186
いさかかつじ・町と人を訪ねるイラストレーター
ページの先頭へ

戻る

ホーム ホーム