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KANDAルネッサンス 77号 (2006.04.25) 印刷用
表紙◆「神田日和」のこぼれ話3

芝本 均さん (芝本和本製本)

いさかかつじ

 今回は謡曲本を中心に和綴じの本を製本している「芝本和本製本」をお訪ねした。地下鉄神保町駅のA7番出口を出てすぐの小道を左に歩いて行った所にある。「えっ、ここにあったの?」と言ってしまった。いつも通っている道なのに気がつかなかった。
 芝本和本製本は明治20〜25年ごろ、明治元年生まれの初代によって創業。戦災にあうまでは、ずっと須田町で、洋本も手がけ人も多く使っていた。和本専門になったのは昭和26年に神保町に移ってから。和本を製本している店は全国でも数店しかないそうだ。目立たないけど、こういう店がしっかり続けている。神田はあなどれない。

 和本の製本は多くの工程を経るのだが、ほとんどが手作業。三代目・芝本均さん、奥様のきよみさん、息子さんの泰忠さんのご家族三人でされている。
 三代目は昭和14年生まれのチャキチャキの神田っ子。端切れのいい東京弁で「近ごろ、豆腐でも何でも“手作り”だね。この仕事を手作り、手作りって特別に見られるのはイヤだね。手でしか出来ないだけのこと」と言う。
「文化」という風呂敷で包まずに、生活感覚で言葉を話す人って好きだ。お話しを伺っているうちに、三代目は私の高校の先輩だということがわかった。いい先輩と出会えて良かった。

 私の家に謡曲の稽古本がある。父がどういう風の吹き回しか、かなりの歳になってから謡曲を習い始めた。すでに他界しているのだが、形見のつもりで残してあった。戦前に発行されているから、もしかしてこちらの仕事かなと思い数冊持ってきた。残念ながら違ったが、「粋な仕事をしてるね」という三代目のつぶやきを聞いているうちに、製本の仕上がり具合で本の品格が決まるのだなとあらためて気がつかされた。
 たまには見かけるけど、奥付けに製本所の記載があってもいいように思う。

「のりづけ」をこなす四代目
 奥様のきよみさんは、折り、かどかけ、綴じ、外題貼り、その他多くの作業をこなす大ベテラン。正座で仕事をされている。その姿勢がいい。「座ったままのお仕事で足腰は大丈夫ですか」とお尋ねしたら、ご夫妻とも社交ダンス歴が長いとのこと。
 三代目は若いころは新宿、錦糸町、銀座まで平気で歩いたという。今でも2時間かけて10kmを歩く。絵を描いている私もそうなのだが、こういう仕事は足腰が弱ると仕上がりに影響してくる。三代目は私より4年先輩なのに「オレより足腰が弱っているね」と言われてしまった。

 四代目・泰忠さんもこの仕事について14年目になる。お訪ねしたときも“のりづけ”と“ちょうちょ切り”を黙々とこなされていた。三代目は「ていねいすぎる。職人はていねいで、早くなければいけない。まだまだだね」と手厳しい。
 こうやって伝わっていくのだ。大げさな言い方だが、現場は体を通して技が伝わっていく聖地ではないかと思っている。需要がなくなれば技はすたれていくものだが、こういう現場がある限り大丈夫だ。




いさかかつじ・町と人を訪ねるイラストレーター
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