KANDAアーカイブ

神田学会
お知らせ 神田資料室 神田マップ 神田写真館 百年企業のれん三代記 神田の花咲かじいさん 出版物紹介 神田学会とは 神田学会資料請求 関連リンク Perspectives in English 神田アーカイブとは リンクについて 問い合わせ

神田資料室

KANDAルネッサンス 76号 (2006.01.25) 印刷用
表紙◆「神田日和」のこぼれ話2

吉田カバン

いさかかつじ

 あまり物にこだわらない私が、そのカバンを見た瞬間「欲しい」と思った。
 「どうだ、いいカバンだろう」と威張っても、気取ってもなかった。中に物が入ったらもっと素敵になるだろうなと思わせるカバンだった。そのカバンを作り、卸して、売っている「株式会社吉田」をお訪ねした。息子に「こんど吉田カバンに取材に行くんだ」と言ったら「スゴイ」と言葉が返ってきた。「吉田カバン」のほうが通りがいい。

東京本社ショールーム
 吉田輝幸社長へのあるインタビューでは、聞き手が「御社」という言葉を使っていた。私は使ったことがない。この言葉を当たり前に使う会社だったらどうしよう。

 ジーンズ姿の広報部の上松美保さんに、まず「御社」の件をうかがった。
 「実際はもう少しフランクなインタビューで、少し堅くまとめられたようです」。そういう会社ではなかったようでホッとした。こだわったことで、かえって「株式会社吉田」を感じることができた。

 「創業者の吉田吉蔵は、カバンの原点は振分け荷物だと言ってました。修行時代、関東大震災の時に、ニ本の紐で多くの物が運べ、カバンは道具だと実感したそうです」「昭和10年(1935)、29歳で神田須田町に吉田鞄製作所を設立してからは経営に徹していたようですが、晩年は手縫いのカバンの製作に没頭していました」「一針一針細部までこだわって縫い上げる《一針入魂》が口癖でした」「職人を経験していたことで、職人たちとマンツーマンの話ができたようです」「今でも協力工場の方々が一日に何度も社にいらして、綿密に打ち合わせをしていきます。海外の工場で生産する場合、これがしづらくなります」「今《一針入魂》は社是になっています」

戦後、材料や製品を運んだリヤカー
 「吉蔵は職人気質と好奇心とプロデューサー的発想をあわせ持っていて、いいと思ったら『やってみろ』という柔らかさがあったようです」
 この会社には、上松さんをはじめ「吉田カバン」を好きな人たちが集まっているようだ。幸福なことだ。
 何か健康的なものを感じますねと言ったら「健康的というより、<真っ当>という言葉のほうが当てはまるかもしれませんね。また『人に迷惑をかけるな』というのも吉蔵から現社長への教えです」という返事。若い女性から〈真っ当〉という言葉が出てきた。
 インタビューの間、調子に乗って少々意地悪な質問もしたが、上松さんは実に賢く答えてくれた。
 これも魅力あるカバンをつくり続けている秘密のひとつかもしれない。


いさかかつじ・町と人を訪ねるイラストレーター
ページの先頭へ

戻る

ホーム ホーム