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KANDAルネッサンス 66号 (2003.07.25) P.5 印刷用

特集 東京の顔・現在そして未来。


神保町にみる都市の持続可能要素とは?
それは、独自の地域力があるということ。


再び江戸から東京へそして未来へ

大内田鶴子 江戸川大学助教授(NPO支援センターちば理事、関東都市学会理事)

変化しない不思議な町・神保町

 未来から東京を見るというどういう風に見えるだろうか。今私たちは平成○年と現在を意識しているが、未来に遡った私は迷うことなく「東京時代」と称しているだろう。権力・財力・文化力が極度に東京に集中した時代なのであった。その都市のエネルギーの大きさは、「江戸時代」における江戸などとはくらべ物にならない。泡(バブル)を吹き上げるほど沸騰していたのだった。江戸時代は独自の藩文化が発達した権力分散の良き時代であったと回顧されていた。現在の東京と、その基盤である政治社会体制を良く言う人が少ないのは当然である。何とかして一極集中を是正し、地方分権を推進しなければならないのであった。
それにもとから東京に住んでいる住民としても、確かに東京の肥大化には迷惑している。こういう時代に東京を誇るのは難しいことである、しかしながら、仕事で全国を調査して歩くうちに、東京以外のどこの人も「我が町や村」を大層誇りにするに気付き、東京を顧みて惨めになった。何を誇れるだろうか?

世界で二つとない古書店の町、神田神保町。

 東京のなかにも、あまり変化しない不思議な町があった。独特の雰囲気を持ち、ここには何か発見できるかもしれないと、調査に取組んだのが神保町である。神保町には、緑はないが本がある。緑より、本が多いことの方が誇れると私は思う。日本人は自然とともに生きている。毛虫の大発生が垣根を丸坊主にするように、巨大な人口の吸収がまちをコンクリートの砂漠に変えたのだ。東京人は都市の成長抑制を行わず(失敗し?)肥大化を放置したのだ。毛虫と同レベルのようであるが、多分単一思想で都市計画ができなかったからであろう。東京のまちには、江戸時代以前から引継いだ八百万の神神が信仰されている。東京時代になって、さらに乃木神社や靖国神社、明治神宮などの神が増えたのだ。神田では千年前から信仰されている将門さんの祭りが現役で行われている。花の都でなくなったのは残念なことだが、私たちは故郷を後にしてきた人達と住宅や土地を分かち合い平和に暮らした。犯罪率の低さと大量の小土地所有者の存在は統計によって証明することができる。

神保町という遺伝子

 さて、話題を神保町に戻そう。神保町がなぜ100年以上も本屋街として続いているか考えてみた。様々な要因があると思われる代表的なものを挙げる。第1に、個々の店が巨大経営を目指していないことである。第2に、「市場「いちば)」を持っていることである。第3に、経済外の人間関係を大切にしていることである。
明治時代に経営の新機軸を次々と打出し巨大化した博文館は衰退した。これに対して有力な書店であった一誠堂は、暖簾分けし独立店を育成しグループ化していった。現在も一誠堂の息のかかった書店が街のコアになっている(脇村義太郎『東西書肆街考』)。神保町書店街の経営姿勢は「一人勝ちしない商売」だと言えよう。第2の「市場」はMarketではなく「いちば」である。人・物・金・情報すべての集散場としての原形市場である。神保町の市場の存在についてはこれまで殆ど注目されてこなかった。私は、この古書「いちば」こそが古書籍商が江戸から受継いだ貴重な遺伝子の一つであり、築地市場とともに300年後の人々が感心する創造物なのではないかと思うのである。第3の経済外の人間関係は、市場を中心とした顔の見える交流と、一人勝ちしない経営から自然と派生するものであろう。
 これら3つの要素は「街と生業と人」を巨大化・システム化の魔力から守り、継続させているのだと考える。
 識字率の高さは東京時代が江戸時代から引継ぎ発展させた重要な資産である。江戸時代から現代にかけて、本は立派な装丁で書斎に飾られるものではなく、貸し本屋に置かれ、大規模書店や露店で売られるもの、すなわち大衆の文化であった。本のリサイクル市場から発展した古書店街は識字率の高さの象徴のような存在である。未来の人は、大都市東京の識字率の高さ、犯罪率の低さ、貧富の差の縮小に着目するのではないかと思うのである。


大内田鶴子 江戸川大学助教授(NPO支援センターちば理事、関東都市学会理事)
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