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神田資料室

KANDAルネッサンス 47号 (1998.10.25) P.6 印刷用
我ら神田っ子9

白桃書房 三代目 大矢栄一郎さん

「『神保町』=『本の町』は、未来へ託す我々の文化資産です」

「神田」といえば「本の町」というイメージはご周知のとおり。そこからほどなく歩いて20分。年間新刊点数約50点。外神田で出版業を営む大矢栄一郎さんは、今こそ本の価値が求められる時代と、情報のるつぼ“神田神保町”に限りない可能性を見つけ出しています。

出版業はアイデアで勝負
 当社は冨山房に勤めていた祖父(大矢金一郎)が、昭和20年に神田神保町で出版業を創めました。社名は創業時の仲間の縁で、斎藤茂吉翁の歌集『白桃』からいただきました。その頃の出版業界は、作れば売れる時代。全国で4,000社、とくに神田には2,000社におよぶ出版会社ができたそうですが、現在は当時から続いているところは、その1割程度です。
 現在は、経営・会計・経済など社会科学系の専門書を出版しています。市場は限られますが、経済は常に変化するものだけあって、豊富な情報が求められます。そういう意味では、神田にいることはおおきなメリットになります。
 出版業は「情報」を必要としている人達に、いかに早く適確に伝えていくかということが大切です。今までは、活字時代の象徴である本を通じて伝えてきましたが、情報の内容によっては、コンピュータ・ネットワークなどの新しいメディアを通じて発信していくことも必要になってくることでしょう。そこが今後のわが社にとって、大きな課題となってきています。

お金で買えない二つの魅力
 今は、住まいから会社のある外神田5丁目まで歩いて通っています。歩きながら仕事のことをあれこれ考えるのですが、この20分というのが私の頭の切り替え時間。なかなか快適です。
 また、出版業界のものにとって、神田神保町はステータスシンボル。今も変わらぬ価値観が根強くあります。路地裏に入ると、本の取り次ぎ業者が密集している通称「神田村」があります。ごちゃごちゃしているけど、活気があってなんだか落ち着くんです。背伸びすることもなく、きどる必要もなにのが神田なんだなって感じます。
 そして、神田にはお金で買えないものが二つあります。
 買い物事情は決して満足できませんが、これはお金でなんとか解決できます。まず一つ目に挙げられるのが、生活にゆとりが持てるという充実感。つまり、使い方によって時間を無駄無く活用できる環境があるということです。毎日の徒歩通勤20分もそうですが、地下鉄をはじめとする交通網が、これだけ密集しているのも都内でも神田ぐらいでしょう。
 二つめは、「安心感」です。“みんな知ってる顔”っていうのが、このオフィスビルばかりの町で生活していても不思議と落ち着くんです。でも、最近の町並みの変化を見るにつけ、この「安心感」がいつまでも保たるかと考えると、危機感がないと言ったら嘘になります。学生の頃は「神保町に住んでる」と言うだけで、山手育ちの友人にからかわれたりしたものです。きっと商業地としてのイメージ(うるさい・空気が汚れている)が先行してしまったのでしょう。
 でも、それは数ある神田のイメージの一部。この町は、秋葉原の電脳都市、スポーツ街、国際化、伝統の祭り、オフィスビルそして本の町と様々な顔を持っています。自分の考え方しだいで、柔軟に変化する町なのです。日頃、私達は何でも枠の中に収めてしまいがちですが、ここにはそのような枠がない。私を含め、自由人にとっては住みやすい町ではないでしょうか。

真の発展とは? 高層化が神田の発展!?
 神保町界隈も再開発で徐々に高層化されていくと聞きます。ビルが建って、そこへ人が住むことは喜ばしいことですが、果たしてそれだけが町の発展といえるでしょうか。
 私は、人間のつながりなくして、真の発展はないと思います。近隣の大学や企業はもちろん、祭り担当は○○さん、夏のイベント担当は○○さんといった具合に、それぞれが得意分野で活躍でき、それらがひとつになる時、きっと町の魅力が生かされ、発展をしていくと思います。一番危惧していることは、「神保町はみんなの町であり、自分にとってのふるさと」という意識が変わってしまうことです。そのためにも、住民の一人として、町会の仕事に誇りをもって参加しています。
 そして、今日まで生き続けてきてる本の町の歴史を絶やしてはなりません。本が好きな人が集まることによって、文化が発展するのです。こんな町はどこを探しても、ここ神田神保町だけだからです。
 ただ一つ言えることは、固執しすぎないこと。いかにバランス良く、情報を取り入れ、自分達のものとしていくかが大切です。これは、今後の出版業界がなすべきことと重なりますね。
 きっと本の町を愛するプライドが、私をそうかき立てるのかもしれません(笑)。




大矢栄一郎 白桃書房三代目
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