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神田資料室

KANDAルネッサンス 27号 (1993.10.20) P.1〜5 印刷用

特集 特別寄稿「神田再生への道」

ローマ、パリ、ロンドンの下町と同じような
コミュニティを手がかりとした神田の街づくりを

建築家・法政大学教授 河原一郎

A.東京都心神田の特徴と重要さ
 江戸は近世都市計画の傑作でした。そして、東京も大変優れた立地と素質と構造を持っており、これからも上手に再生すれば、まだまだ住みよく、文化的で、活動的な都市となる筈です。バブルの時代には、首都移転論まで唱えられましたが、地方都市の自立と活性化を授けるバランスの良い、小さな政府をおく場所は東京、千代田にしかありません。又、千代田区は皇居、霞が関、丸ノ内と共に神田、麹町があってこそ初めて首都都心であります。従って、千代田区がダメになったら東京がダメになり、東京がダメになったら日本がダメになると考えています。
 神田は長年そこに住んでいるひと達の神田であると共に、都心として都民全体のものであり、首都都心として国民全体のものでもあります。私にとっても私の教えている法政大学は富士見町にあり、私の学んだ元府立一中、現日比谷高校は永田町にあり、多くの友人が神田に住んでいました。
 戦後の東京、特にその都心は色々な矛盾を抱えこんできましたが、私どもの研究によれば、江戸、東京の都市計画は日本が古代から中世を経て近代に至る迄の国際交流の中で導入してきた世界的な都市計画をとりいれ、育て、統合した極めて優れたものでありました。それは次の6つのものです。
 1、古代の陰陽五行風水学の都市計画
 2、中世の孫子の兵法の都市計画
 3、中世のイスラムの貿易都市計画
 4、近世のポルトガルの城塞都市計画
 5、近代のバロックの都市計画
 6、いわゆる近代都市計画等です。

 さて、首都都心の一部を構成する神田は歴史的なコミュニティと都市型地場産業を持った典型的な都市市街地として、その役割を果たし、下町神田としての誇りを持っております。僅かにここは戦後の急速な変化によって混乱しておりますが、ローマ、パリ、ロンドンその他の世界の優れた歴史的都市市街地と同じ課題と将来像を持っております。
 勿論、神田には神田の生活があり問題があります。バブルの最中には地上げもありましたし、生活環境の悪化や税金問題や、景気の低迷もあります。しかし都市社会の容れ物としての、その市街地は世界に共通したスタイルがあります。神田は今後もそのスタイルを完成させていくでしょう、そのような歴史的プロセスを考えながら、私はその都市再生の方法を考え、提案したいと思います。
 一方、麹町は神田と対象的ではありますが、新しい国際都市としての、サービス産業と高度の文化的情報産業に携わる国際人達の居住地として、新しい社会と市街地を増成しております。従って、麹町については神田と比較して考えてみたいと思います。
B.コミュニティ再生を手がかりとした地区再生計画の提案
 街づくりといっても、私は今迄のように、さら地にして全部建てなおすという再開発ではなく、地元の住民、企業、地権者が主体となって、時間をかけ、徐々に改造していく街fづくりが本筋だと考えています。バブルが終わって、ようやく本来の街づくりが始ります。そして、地区再生を成功させる為、具体的な方法としては住民・企業の協力のもとに、区がリーダーシップを発揮して、区にしかできない方法を駆使して、実践して行かなければなりません。
 区や公社がリードして都市再生を行うならば、一人の区民も追い出さない。しかも地価を顕在化させない再開発、しかも裏町の住民・企業を大切にした再開発を進めるべきであります。勿論、区は国・都と企業の協力も得なければなりません。相続税対策も逆手にとって街づくりの役立て、区民の財政、生活問題を最も有利な形で解決していく必要があります。
 千代田区は40,000人以下にまで減少した人口を西暦2000年迄に50,000人に回復するという方針をたて、その対策をつぎつぎに打ち出し始めております。経済状況の激変にも拘らず、今、緊急に必要なことは、地元からの動きに期待すると共に、どこにどの様に居住回復をするか、又その居住回復事業と周辺地区との関係をどうするかについて区が具体的な計画を提示すべきであります。その討論の叩き台として、私の提案をここに述べさせて頂きたいと思います。これは世界中何処でも行われている当たり前の街づくりの方法であります。
 居住回復はバラバラに行なってはすぐに消滅してしまいますから、区の新旧小中学校等を中心にした現在の居住地区を点として、又それを線として生活道路でつなぎ、それに沿った生活関連の商店・住宅・公共施設を再生し、更に面的に住居を展開.開発して行かなければなりません。区は地元と話し合いながら、小中学校を含めて公共施設の適正配置を進めておりますが、これらは公共施設とその周辺地域が一体となった居住再生のビジョンを示し、実行していかなければなりません。
C.千代田区の現存コミュニティの調査研究
 千代田区における、居住回復に適した地域は三日月型にひろがっており、それは下町神田地区と山の手麹町地区の二つの地区にまたがっております。この二つの地区の性格は異なりますが、昔からの都心コミュニティとそのネットワークの存在を今でも確認することが出来ます。一頃の業務の集中による、地価高騰と生活環境の悪化の為に、神田地区では人口が急速に減少しましたが、この地区には未だ多くの人が住んでおり、低層の古い家屋も残存し、公共施設も配置され、魅力のある都心居住も見られます。他方、麹町には神田とは異なった、或る意味では全く反対の、新しいタイプの世界都市住民としての居住形態が出来上がってきております。
D.150の居住回復促進と特別地区と150の居住回復誘導地区の提案
 今、国、都と区は都心居住回復の為に住居地域の改正や中高層階住居専用地区の導入を始めようとしております。よく住民と話し合いながら、キメ細かに、フレクシブルに導入するのであれば、私は賛成であります。その上で私は神田・錦町の全地区において、地区計画の対象となり得る適当な大きさの約300組の街区群を想定することを提案致します。その中、西暦2000年迄に居住回復を積極的に促進できる場所は、今でもコミュニティが生きている地域、即ち、図の中で赤色で示した、神田から麹町につながる三日月状ベルト地帯の約150組の街区群であります。これは表通りではなくて、むしろ裏町のコミュニティであります。従ってまずこの150の街区を居住回復促進特別地区に指定し、一括して地区再生を進めるべきだと考えます。これはバブルの経済の中で圧迫され、とり残された地域社会の復建でもあります。この内、少なくとも100組位の街区再生が動き出さないと、区の居住回復の目標は達せられないでしょう。そして残りの神田・麹町の約150組の街区群は全て居住回復指導地区に指定するのが良いでしょう。
 区が上記促進地区全体を一括して特別地区として居住回復を進めるならば、今迄大きな開発にしか使えなかった総合設計制度その他のあらゆる有利な手法を使って、細い区道による規制等の緩和を検討し、最大のプレミアムを得て開発できる筈です。都心居住は都市基盤に対する負担が業務関係施設より少なく、環境、業務、交通等の都市バランスを取り戻す為にも役立つからであります。
 新規導入の住居階層としては、先ず都心居住を支えるサービス業務や商店の人々、しかも子供のある若い人達を家賃扶助してでも導入すべきでしょう。又、企業からの協力金は、区がお世話して再開発した街区に区民住宅や社宅を作る為に、又都心コミュニティの維持に必要な人々を呼ぶ為に使うのも良いでしょう。しかし、それらには必ずそれに居住し、かつ住民登録の義務づけが必要になります。
 この居住回復促進地区は細長い地域なので、途中に拠点が必要です。小中学校等の公共施設も拠点ですが、都心居住の魅力ある大規模拠点としては、秋葉原、飯田橋の再開発地区と赤坂のホテル地区を考えるべきであり、歴史的拠点としては神田明神・日枝神社・靖国神社等を考えることも出来ます。
E.神田・麹町の街区統合再開発計画と建築計画の提案
 私は神田・錦町に地区計画を作ってその再生を協議する為に、適当な大きさの約300組位のグループを想定することが出来ると申し上げておりますが、その街区統合再開発の地区計画を作る時の条件としては次の3つを考えることが出来ます。それは、
 1、住宅を出来るだけ多く導入すること
 2、緑地(空地・広場等)を街区の内部に作ること
 3、首都都心らしい理想的な町並みと景観を作ること等であります。

 先ず、街区群毎に西暦2000年前に建て替え可能な権利者とその後に建て替える権利者との間で協定を結びます。その場合、それぞれの敷地から神田では約30%麹町では約40%の空地を出しあって緑地をつくり、街区計画を行なうことにします。それで神田では街区に中庭的な空地をつくり、麹町では緑道を含み横に街区を貫く空地を作ります。
 建築群の計画は出来るだけ共同化を進めることとしますが、街区等に良い形で総合計画と地区計画ができたならば、バラバラの歯抜けの再開発でも良いから、できる所から順次開発を進めて行っても良いこととします。しかし、ペンシルビルを防ぐ為、敷地は出来るだけまとめて建設し、階段・エレベーターはなるべく一定の間隔でおくようにします。又、建物どうしの間をあけないで建てる方式や共同の地下駐車場のとり方も検討する必要があります。
 街区の計画は次の3つのレベルと方向で検討し、上記の3条件を満たしているかどうかで、プレミアムがつくこととします。
 1、現状に近い形で個別に建て替えを進める案
 2、町並み形成を考えて、中庭をとり、街区を囲む中層建築とし、10階前後の建物で順次建て替えを進   める標準的な案
 3、大きな空地をとる為に、30階前後の超高層ビルを一部に導入する案

 尚、ここでは首都の都心として、格調が高く質の高い町並みと建築をつくる為に、競技設計その他で、建築家の選定につき特に配慮しなければなりません。
 神田らしさを残した、魅力ある下町コミュニティを再生する為には、第2の案のように、街区内に中庭を含みそれを囲んだ下駄ばきアパート方式の、職住一体の再開発が相応しいでしょう。それは1、2階に既存の商店や業務を入れ、3階以上の階にオフィスや住宅を入れた横割り方式であります。パリ・ローマ・ロンドンの下町も皆同じであります。もっとも、神田でも大きな地主がある場合、又は話しあいがまとまった場合には第3の方式、つまり大きな空地をとって、高層ビルを導入し、オフィスと住居を縦割りにすることもあり得るでしょう。神田の再開発では街区の内側の敷地の人達と外側の人達との権利の調整が大切です。神田では細い区道だけに面した内側の人々が一番困っているし、その街区の内側にこそ住居導入の余地があり、中庭も作らねばなりません。区はその人達を大切にして、細い区道の規制緩和とその解除・活用を行なうことから居住回復を始めるべきであります。これらの問題を解決する為には時限立法も必要でしょう。ここでは誌面の関係でこれ以上詳しい提案は示せませんが、街区の内部と外部の関係については、この小冊子「神田ルネッサンス」前号の伊東敏雄氏の蛹と繭の図面を見てください。
 又、麹町には大変大きな街区が沢山あります。ここでは麹町らしさを残し、中路に緑地や緑道をとり入れた、魅力ある高級住宅地としての再生を進めるべきでしょう。番町も含め麹町の再開発でも街区の敷地の人達と外側の人達との権利の調整が大切です。ここでは袋小路の奥の人々が一番困っていますが、そのあたりが居住を導入することの可能な土地でもあるので、区はその人達を大切にしなければなりません。ここの街区では、敷地にゆとりがあ(る?)ので、土地つきの低層独立住宅を除くひともあるかもしれませんし、オフィスとアパートを別棟にした縦割り方式を希望する人が多いかもしれません。これらは慎重に検討すべきであると考えます。
F.下町、神田地区コミュニティの周辺地域への広がり
 下町、神田地区のコミュニティ再生地区はお茶の水の丘を囲み、円弧上に広がる地区ですから、昔からの職住一体の地域として、隣接する新宿・台東・中央区等の下町のコミュニティ再生地区につながっていくべきであります。ここには今なお、印刷、書籍、運道具、電気製品、衣服、化学薬品その他の歴史的都市型産業が存続しています。秋葉原駅周辺の再開発では最近、都が都民生活センターという案を出したそうですが、それならばそれを神田から城東に拡がる生活関連地場産業と都民全体との連携を作り出す為のセンターとするのが良いのではないでしょうか。
G.山の手、麹町地区コミュニティの周辺地域への広がり
 山の手、麹町地区のコミュニティ再生地区は昔からの高級住宅地として、武蔵野台地の上に四谷から扇型に広がり、隣接する新宿・渋谷・港区等の山の手コミュニティ再生地区につながっています。麹町地域には最近、テレビ関係者・政治家・弁護士・公認会計士・デザイナーその他の新しい都市型の文化的な情報蚕業とその住居が集中してきています。これらの地域の計画は区周辺の都市再生のモデルになるように進める必要があるでしょう。
H.建設でなく、改修の提案も
 このような地域の再生の為には区民と区とが徹底的に話し合うと共に、区役所内に実行委員会を作り、専門家の協力を得ながら、マスタープランと地区計画の研究と実行計画を作る必要があります。区は方針をたて、法律と財政の手当てをし、街または公社がそれを実行することが求められております。
 皆さんはこの不景気に再開発などあり得ないとお考えかもしれませんが、こういう時こそ落ち着いて対策を講じなければなりません。手近なことも考えてみましょう。先に述べた住居回復促進特別地区では、今迄オフィスに使っていた既存のマンションやアパートを住宅にもどしたり、オフィスビルのペンシルビルをアパートに改装することから始めるべきではないでしょうか。改装費は坪50万円、1戸20坪余として1戸1000万円です。そうすれば100億で1000戸も住居が出来ます。安いのではないであようか。これには区が補助金を出しても良い筈です。オフィスビルも空き家になっているよりはアパートにしたほうが良いでしょう。用途地域制必要ですが、市街地を構成する都市型の建築は、社会と景気の変動があっても、どんな用途にも対応できる建物でなければならない筈です。
以上の提案について皆様のご批評をお願い致します。


河原一郎 建築家 法政大学教授
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