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KANDAルネッサンス 9号 (1989.04.20) P.8 印刷用
神田の音・神田の耳(8)

こどもたちの耳

兼古勝史

 幼い頃、「早く寝なさい。」とせかされて布団に入ったものの、床のきしむ音や、時計の音、あるいは自分の耳の中を血液が流れる微かな音が気になってなかなか眠りにつけなかった体験をもつ人は多いだろう。子ども時代、人は音に対しても鋭敏である。が、小さな耳を悩ませ続けたこれらの音は、成長するにしたがって消えて行く。大人になる頃には皆、大抵の音は気にならなくなってしまうのだ。

 研究会の活動はこの4月で満3年を迎えた。3年間を振り返ってみて、私にとってもっとも印象深いことと言えば、一昨年の夏に行われた「リーチアウト21」シンポジウムの折に神田の子どもたちと過ごしたひとときである(このシンポジウムは千代田区の21世紀の街づくりに地域の子どもたちの意見を生かそうと、東京青年会議所千代田区委員会が主催して行ったもので、大人対子どものディスカッションの他、“千代田区内の好きな場所・嫌いな場所……”というテーマで区内の小学生から募集した作文や絵画の発表が行われた(本誌2〜3号に関連記事)。当時まだ教育学の学生であった私は「子どもたちがどのように“自分たちの街”をとらえているか、とりわけ“街の音”について何を感じているか」に興味をひかれ、シンポジウムの準備段階に参加させていただいた。

 子どもたちの発言、作文から——
「好きな所はニコライ堂。周辺は大通りがあって、車とかうるさいけれど、ニコライ堂のところは静か、質素でよい。鐘も日曜日に鳴って、すごく好きです。」
「とてもよい音色で、気が荒だっている人も心がなごむと思います。」
 ニコライ堂に関する子どもたちの言及は多い。鐘の音は、彼らにとっても、神田のサウンドマークになっているのであろう。

「嫌いな所は学校の近くや靖国通り。車の交通量は多いし、人はがやがやしていてうるさい。」
「上に高速道路があり、つなぎ目でゴトンゴトンという音が、今にも橋がくずれ落ちそうで渡る気にならない。」
「雑音などを消す機械があればそれを車にとりつければいいと思います。そうすれば21世紀の千代田区はもっとよくなると思います。」
 彼らもまた、交通騒音の被害者である。

「僕が寝るまぎわに酔っ払いが騒いだり……。」
「夜はさみしい町にかわります……。」
 夜、行動範囲が狭く、就寝時間の早い子どもたちにとって“自分たちの街”は目で見るというより耳で聴くものなのかも知れない。

 音を発することに関して、彼らは芸術家(アーティスト)である。
「(神田川で)錦華太鼓を叩いたら、すごく気持ちいいだろうと思う。」
「それから楽しいのは、(高いビルの上から)大声でどなって、さっと隠れてそうっと見るのが好きです。」
 これは、音を使ったいたずら———

 神田で研究活動を行っている間、時間はせわしなく過ぎて行った。ここに紹介した子どもたちも、中学生になっていることだろう。今、彼らに「神田の音」はどうきこえているだろうか。2年前と同じではあるまい。音は物理的な客体として存在するだけでなく、聴く主体の有様によってもその意味を変える。サウンドスケープ研究が住民の方々への聞き取り調査を重視する所以である。この2年間、神田は少しずつ変わってきた。だが、子どもたちの内面の変化はそれ以上に違いない。神田の音について、再び彼らの話しを聞いてみたい誘惑にかられているこの頃である。




兼古勝史 神田サウンドスケープ研究会会員、高校講師
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