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KANDAルネッサンス 8号 (1989.01.01) P.1〜2 印刷用

特集 東京ルネッサンスを考える

街づくりフォーラム 結果報告(抜粋)

 一極集中化が進み、様々な都市問題を抱え込んだ首都・東京。この現状を打破するべく、各地で街づくり運動が盛んに行なわれています。
 オフィス化が進み、人口が激減した千代田区とて例外ではありません。行政では、街づくりのスローガンを“人の住む街、住めるまち”と掲げ、「街づくり協議会」「街づくり懇談会」、そして昨年10月発足した「街づくり推進公社」などが中心となって、21世紀に向けた千代田区の街づくりを展開しています。
 それに加え、民間レベルででの街づくり運動も忘れることはできません。本誌でも連載でご紹介しております「神田学会」も、その中のひとつですが、今号の特集は、その「神田学会」が企画をし、東京商工会議所千代田支部が主催となって行なわれた街づくりフォーラム、「東京ルネッサンスを考える」のレポートをお届けしたいと思います。

東京都心部再生(リボーン)への挑戦
講演 望月照彦

 街づくりの目標・目的については色々ありますが、千代田区の場合は三つくらい考えてみたらどうかと思います。
 私は先ず第一に、街づくりというのは生活づくりであり、そこに住む人々の幸せづくりなのだと思っています。つまり、人々がいかにその地域の中で生活や幸せというものを取り戻していくのかということがポイントになる、ということを先ず一点申し上げておきたいと思います。
 実は、きょうここに来る前に新潟で同じようなシンポジウムがありました。東北六県が「東北産業興し・街づくりフェア」ということで新潟に集まり、きょうのこの会場と同じように熱気溢れるシンポジウムを開き、そこにパネラーの一人として出てまいりました。大変な熱気がありました。実際、全国的には街づくりは非常に盛んになってきています。
 私はきょう色々な話を新潟でしてまいりました。地元は一生懸命蚕業を興そうと努力しておられましたが、少々苦情といいますか問題提起をしてきました。
 その産業フェアは東北が関東圏や中部圏に比べて産業振興が遅れているということがモチーフになっておりましたが、どうも一生懸命産業を作ろうと思えば思うほど、その地域、都市、街に生きる人々の生活感が失われているのではないだろうかことを申し上げました。
 例えば、産業を興す時に「一村一品運動」というものが盛んに行なわれておりますが、ある街ではワインを作りました。その物作りに関係した人達が集まって試飲した時のこと、最初は「美味い」「まずい」と言っていたのですが、そのうちに会場の隅でその土地の地酒が開けられました。すると皆がそこに集まって「やはり日本酒の方が美味い」ということになって地酒の方を飲みだしました。
 なぜそうなってしまったかというと、その街に“ワインを飲む”という生活スタイルが出来上がっていなかったからです。
 また、現在リゾート法案が出来て全国的にリゾート開発をやろうとしていますが、例えば、地元にホテルが出来るとします。すると、地元の人がそのホテルに雇用され、相変らず朝から晩まで働いて、リゾートを誘致した人が全然リゾート出来ない、そういう生活スタイルが出来ないというような変てこなりんな話になってしまうのです。それもやはり具体的な生活のイメージが地域に無いということになるのではないかと思います。
 そういった意味から、街づくりとは一体何なのかというと、確かに産業や文化づくりというものはあるわけですが、一番大切なのは「生活づくり」ということをどう取り込んでいくのかということで、それがやはり一番基礎になるのではないかと思います。
 二つ目は、街づくりを社会的な、あるいは個人的なものも含めた新しい一種の財産形式(インフラの形式)という観点に立ってやっていかなくてはいけないのではないだろうかということです。
 今、日本は非常に豊かな国になったと言われています。確かに技術立国になり日本の製品は世界を席巻していますし、ジャパンマネーはそれ以上に世界を席巻しています。ニューヨークでもロスでも日本の企業が土地を買いあさっているのです。
 ところが、一体その日本の豊かなものが、皆さんの一人一人の生活にどういうふうに実感的に反映しているのでしょうか?
 この前、高名な経済学者にお会いしたら、二〇〇一年には日本人の年間所得はアメリカ人の倍になると予想なさっていました。
 我々は、戦後、アメリカ人の豊かな生活のニュースを見ると、どうしたらあんな豊かな暮らしが出来るのだろうと憧れたものですが、二十一世紀にはそんなに憧れた生活の倍の所得を持つということをその方は予測しているわけです。
 しかし、そういう予測が実感として我々の中には響いて来ないんです。
 それから岸本重陳先生という横浜国大で中産階級論をやっている先生によると、例えば、イギリスの中産階級の定義とは、「親子三代—おじいさん夫婦・自分達の夫婦—が一切働かなくても食っていけるだけの資産を持っているのがイギリスの中産階級だ。」ということですが、日本の中産階級というのは、皆さんご自分でお考えいただくと分かると思いますが、三代どころか三ヶ月会社を休んだらもう自分の席が無く、家族が路頭に迷ってしまうというのが、どうも実感のようです。
 街づくりというのは、新しい日本の生活を作り上げるための、社会的な個人的な資産・財産を作っていくことだと思います。こういう視点は今までの街づくりの中には欠けているのではないでしょうか。日本が二十一世紀に世界的な国になっていくためには、やはり我々の生活が豊かになる基盤というもの、要するに生活のインフラストラクチャーをしっかりと作り上げていくということが大事なのです。
 具体的に言えば、例えば美しい街並みということもそうなんです。もうそろそろ日本も世界の人々がびっくりするような街並みをつくる、あるいは人間的な街並みをつくるというようなことに目を向けていく必要がありそうだと思います。
 三つ目の目的は、有機的な複合都市を作っていくということです。
 池波正太郎の本を読んでいると、江戸時代から近代にかけての江戸・東京の街というのは、全部ブロックブロックで自立した生活圏を持っていたと書いてあります。
 つまり、その街の中に美味い蕎麦屋から寄席から、桶屋とかに働く場所もあって、それがブロックの中で自己完結をしていたということなのです。それが大きく重なって、さらにその上に模様を作っていたのです。
 私は、これから千代田区は区自体が共和国として独立しても自立できるおうな、高度な複合機能を備えた都市になっていかなくてはならないと思います。
 そのためにはやはり、二番目に述べたように、豊かな生活の環境がなければいけないのは言うまでもありません。
 いずれにせよ、これからは現代技術を使ってより高度に、あらゆるブロックの中に多様な機能を混在させ、その混在した機能が生活や文化やビジネスというものに、より高度な波及的効果=シナジー効果を与えていくおうな街をつくっていくということが、実は高度な街づくりではないだろうかというふうに思います。


望月照彦
都市建築家。(株)キャルコーポレーション顧問、通産省コア・シティ推進委員会委員。昭和18年静岡県清水市生まれ。同44年日本大学理工学部大学院を卒業後、民間デベロッパーを経て独立。以後、ハイテクノロジー、ビジネス・インキュベーター、シニア・ライフ産業、都市資源ビジネス等、幅広い研究調査活動を行っている。
主な著書に『マチノロジー・街の文化学』『商業ルネッサンスの時代』『都市文化の仕掛人』『都市のエッセンス』などがある。
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